第1章 Area B
その男はにこにことただ、ベッドの隣に座ってた。
昨日の潤みたいにいろいろと聞いては来ない。
「あの…あんた…」
「俺、智っての。あんたは?っと…思い出した?」
「わかんない…けど…」
「けど?」
「夢のなかで”ニノ”って…」
「へえ…それだけ?」
「正確には、”ニノじゃない”だけどね…」
「そっか…でも不便だからニノって呼んでもいい?」
「うん…」
智はたちあがると、トレイを俺に差し出した。
「飯、食える?」
「うん…」
そこにはシリアルに牛乳が掛かったものとフルーツがあった。
「美味しそう…」
「え?こんなもんが?」
「だって…こういうのジャンクフードだからって食べさせてもらったこと…」
「ニノ!思い出したの!?」
「…わかんない…」
頭を締め付けられるような感覚に襲われた。
手を当てると、ぎゅうと押してみる。
「だめだ…これ以上思い出せない…」
「いいって…無理すんな」
そう言ってニッコリ笑う。
日焼けした顔に白い歯。
麦わら帽子が似合いそうだった。
アロハシャツに細身のGパンというラフな格好がとてもフィットしてる。
ペタンとビーサンを鳴らして智は立ちあがった。