第3章 エニグマ
「本を…読むと…おとうさんってなんだろう…おかあさんってなんだろうって…思う…の…普通の人間なら、誰だって居るんでしょう…?それが心の拠り所なんでしょう?僕には…なにもない」
沈黙が部屋を支配した。
何のために生まれた生命なのか、ここには答えてやれる人は居なかった。
誰かの代わりになるために生まれた生命だって…
誰かに臓器を提供するために作られた生命だって…
誰かの代わりに戦争に行くために作られた生命だって…
ニノちゃんはその生命の一番最初に成功した生命体なんだって…
そんなこと、言えないよ…
エゴなんだ…
潤の言うとおり、恐ろしいことなんだ…
だけど、ここに居るのは…
ただの命なんだ。
「どうして僕が生まれてきたか、誰も教えてくれないの…だから、僕が生きる理由もわからないの…」
「そんなの…自分で見つけていくんだよ」
智が言った。
ベッドまで歩いてくると、ニノちゃんを見下ろした。
「誰だってそうだよ。生きてる理由なんかわかる奴なんていないんだよ。だから、自分で探していくしかないんだ。人間は皆、そうしてる」
「みんな…?」
「そうだよ。ここにいる雅紀や潤や俺…ドクターだってそうなんだよ?」