第3章 エニグマ
「…みんな…そうなの…?」
「そうだよ…皆、人間だったら悩むんだ」
翔が静かに語りかけた。
「人間は皆、自分が何者なのか、なぜ生きているか悩むものなんだ…そうやって悩んでるニノは、人間なんじゃないのか…?」
「僕は…人間なの…?」
「そうだよ。人間だよ」
「人間って言ってもいいの?」
「…ニノは死のうとしたって言ったね?」
「うん…」
「自分で死のうとする生命体は、人間だけなんだよ」
「あ…」
「本で読んだ生物、映像で見た生物、どれも自分で死のうなんてしないだろう?」
「うん…」
「だから…ニノは人間なんだよ…」
ニノちゃんは俺の手を握った。
そして涙の溢れる目で俺の目を見た。
「まさき…僕はあたたかい?」
「…うん…あったかいよ…?」
そのままニノちゃんは俺の胸に身体を預けた。
少し、身体が震えていた。
「もう…戻りたくない…」
「え?」
「博士の所には戻りたくない…」
「ニノちゃん…」
「ここに居たい…」
ぎゅっと俺の服を掴んで、ニノちゃんは胸に顔を埋めた。
「ここに居たら…人間で居られる…」
どうして…ニノちゃんが逃げてきたのか、わかった気がした。
誰よりも人間でありたいと願いながら、誰よりも人間として扱われなかったんだろう。
だって、ニノちゃんは特別だから…
「あ…」
「ニノちゃん…?」
「ダメだよ…まだ僕…」
「え?どうしたの?」
「まさき…」
人形みたいな顔をしたニノちゃんが、俺の顔を見て…
微笑んだ
【エニグマ END】