第3章 エニグマ
夜になって翔が忍び込んできた。
例によって潤が迎えに行って連れてきたんだけど、翔の顔色が良くない。
ニノちゃんは翔の顔をしげしげと見ていたけど、なにか思い当たった顔をした。
「ドクター櫻井?」
「ああ…覚えていたんだ…一回会っただけなのに…」
「僕、一回会ったら忘れないんだ…人間には滅多に会えないから…」
「そうだね…ニノ…」
翔は悲しそうな顔をしてニノちゃんの頭を撫でた。
「手の傷は治ったんだね?」
「うん。一日したらいつも治るんだ」
「そう…じゃあもう痛くないね?」
「うん。ドクター?」
「ん?」
「僕、死ねないの?」
「え…?」
ニノちゃんは傷のあったほうの手を擦った。
「僕ね…死のうとしたの。だけどまだこうやって生きてるってことは…僕は死ねない体なの?」
「ニノ…」
「ねえ…ドクターなら知ってるでしょ?教えて?」
「バカなこと考えてないで…」
「僕は、なんで生きてるの?意味がわからない。勉強していく度に思うんだ…僕は人間だけど、人間じゃない…そんな僕に生きてる価値なんてあるの…?」
ニノちゃんの瞳から涙が零れ落ちた。
でもニノちゃんの表情は変わらない。
「僕が死んでも悲しむ人はいない。サーティーンは死という概念がわからない。だってロボットだから。だから僕は死んでもいいと思うんだ」