第1章 Area B
雅紀という人は、白いGパンにベージュのサマーニットを着こなしていた。
細身の体に、それはとてもよく似合っていた。
見送っていると、潤というひとは俺の目を閉じさせた。
「とりあえず眠っとけ。明日の朝には記憶戻ってるかもしれないから…」
潤の手首からいい匂いが漂っていた。
B地区の人も香水なんてつけるんだ…
そんなことを思いながら、俺は眠りに引きこまれていった。
B地区…
そこは危険な場所だと教えられていたように思う。
A地区からはみ出した、規格外の人間が住むところ。
犯罪を犯したもの、障害のあるもの。
とにかく綺麗な世界を保つため作られた、掃き溜めだ。
絶対に近寄るな…
誰かの声が聞こえる。
でも誰の声だったか、思い出せない。
絶対に…絶対に…絶対に…
ああうるさい…やめてくれよ…わかってる…
そんなに言わなくても、やるよ。
そんなに責めなくても、やるよ。
監視しないでくれ。
違う…違うから…
俺は…
俺は”ニノ”じゃない。
「おい…おいったら…」
「あ…」
目を開けたら、周りが明るくなっていた。
「大丈夫か?随分うなされていたけど…」
そこに居たのは髪をツンツンに立てた、人の良さそうな顔をした男だった。
また知らない奴が出てきた…