第3章 エニグマ
約束も誓いもないのに…
なぜ俺達は一緒にいるんだろう。
なぜ何十年も…
智が俺の肩に手を置いた。
「今は、考えても仕方ないよ…」
「うん…」
「ニノが特別な子供だってわかっただけでも、前進したと思おう」
でも、ニノちゃんはそれを全力で否定してる。
あんなに怖がってる。
そして…自分を殺したって…
「…何があったんだろう。A地区で…」
「さあね…生まれが特殊なだけにね…いろいろ抱えてんだろ」
まだA地区で生活していたころ…
ニュースでみた。
多分、あれはニノちゃんのことだろう。
”人類初のホムンクルス”
父親も母親も居ない…
人間のエゴで試験官の中で作られた赤ん坊。
当時、そんな批判が噴出していた。
「雅紀…」
「なに?」
「抱きしめてあげて、いいんじゃない?」
「…智…」
「ニノの抱える闇は…きっと深い」
普段陽気でぼーっとしてるくせに、人のことはちゃんと見てる。
そしてその人にとって一番いいと思うことを、智はこっそりとしてくれる。
敵わないと思う。
肩に置かれた手をぎゅっと握って手繰り寄せた。
「抱いて…智…」
「え…?」
「お願い…寂しい…」
「雅紀…」
ニノちゃんのあの目が、忘れられない。