第3章 エニグマ
「頼むね…翔…」
智は微笑むと、翔の手を握った。
翔はきゅっと握り返すと、潤の方を見た。
「じゃあ、俺送ってくるから」
「ああ…翔…?」
「ん?」
「ありがとう…無理言ってごめん」
「…雅紀?そんな気にするなよ…」
「シュウに…会っていかなくていいの?多分もう来てる」
「ああ…いいんだ」
俺達には会っていくくせに、実の弟であるシュウには会おうとしない。
B地区に忍び込んだきっかけは、シュウだというのに。
「大丈夫。連絡は取っているから…」
「そうなの…?」
「そんなに心配か?俺のこと」
「心配に決まってるだろ…」
「お前はニノのことだけ考えてろよ」
いたずらっぽく笑って俺の顔を見た。
「惚れたんだろ?」
「翔…やめて…」
「いいんじゃないの…?ひと時でも…」
「怖いんだよ…」
「失恋したら、俺が慰めてやるよ」
「バカ…」
「…ふ…」
潤がぎりっと翔の腕を抓った。
「ったいっ…」
「ほら、行こう?」
「はいはい…」
かばんはそのまま置いていく。
翔と潤が出て行った部屋に智と二人で佇んだ。
ここでは約束も誓いもない。
だから誰が誰のものとも決まっていない。
智は潤と俺のものだし…翔のもの。
潤は智と俺のものだし…翔のもの。
俺は潤と智のものだし…翔のもの。
ここでは何も不自然ではない。