第1章 Area B
「ここはB地区だよ…本来ならあんたの入れない場所」
「なんで…?」
「しらねー…あんたこの近くでバイクすっ転ばせてたんだ。俺は通りかかっただけだよ」
男はタバコを傍らの灰皿でもみ消すと、俺の額に手を当てた。
「熱…あるな…」
そう言って俺をベッドに寝かせた。
「ここはB地区の中では安全なとこだから。安心して休んでろ」
「あんた…」
「俺の名前は潤。おまえは…なんて呼べばいいかな…」
「わかんない…」
「名前まで覚えてないのか…」
そのとき、開いたままの入り口から人が入ってきた。
「潤、どう?」
現れたのは細身の男。
さらさらした髪の毛をなびかせて歩いてくる。
つぶらな瞳は、人の良さが全開で出ていた。
「あ、起きたの?大丈夫?」
「あ…はい…」
「雅紀、こいつ熱あるから氷用意して」
「えっ?ほんと?」
そう言うと、雅紀という人は俺の額に手を当てた。
「ほんとだ…熱い…翔呼んでこようか…」
「ばか…そう簡単に呼ぶなよ」
「でも…この子辛そうだよ」
「記憶無くしてる」
「えっ…」
「頭打ったショックだろうな…」
潤と雅紀は俺を見つめた。
「とりあえず翔に連絡だけしとく」
「気をつけろよ」
「わかってる」