第20章 The branched story2
人は…なんで…
「人は、なんで…う~ん…」
「何してるの?ニノ」
開店前の lunar maria でノートを広げてウンウン唸ってみた。
雅紀がテーブルを拭きながら、覗き込んできた。
「うん?なんか、久しぶりに曲が作りたいと思って」
ノートに、言葉を書き散らしてみた。
どうやら、さっきの”切ない”の答えは正解だったみたくて、僕の中の和がうずうずしちゃってるんだ。
「へえ…どうやって作るの?」
「和はいっつもノートに言葉をいっぱい書き出して、それから曲にしてたんだ」
「へえ…そんなのでできるんだ…さすが天才…」
「小さい頃からやってたから…慣れてるんだ」
「…そっか…」
ちょっと複雑そうな顔をして、雅紀は僕の顔を見てる。
「…もう、大丈夫だよ…」
歌うことも…曲を作ることも…
今の僕には、とっても楽しいことで。
和のときの、あの苦しい悲しい思い出は…
みんなが癒やしてくれたんだもん。
「そっか…あんま、根詰めないでね」
雅紀はふふっと笑って、僕の頬にキスをくれた。
…人はなんで…こんなに欲張りなんだろう…
どうして手の中に、あるのに。
まだ欲しいって思うんだろう。
「雅紀」
「ん?」
「…もっと…」
「え…?」
「もっと、キスして」