第1章 Area B
俺の顔を覗き込むと、革ジャンを俺に投げてよこした。
「覚えてねーの?」
「え…うん…」
「おまえ、絶対病院に行きたくないって言ったんだぞ」
「俺が?」
「だからここに連れてきたんだ。幸い、怪我も大したことなさそうだったしな」
そういえばさっきから腕が痛い。
足も腰も、痛い。
手を見たら包帯が巻いてあった。
「一応洗って消毒しといたから」
ぽんと包帯の手を叩かれて痛みが走った。
「いっ…」
「すまねえな」
男は俺の顔をじっとみた。
ポケットからタバコを取り出すと、火を点けた。
すうっと吸って、紫煙を吐き出す。
「あんた…ほんとに思いだせねーの?」
「わかんな…」
男は強い瞳を持っていた。
その上には意志の強そうな眉。
ぽってりとした唇が歪められたと思うと、また紫煙を吐き出した。
「あんたの所持品、調べさせてもらったけど。身元のわかるもん、一切持ってなかった」
「え…?」
「普通、バイク乗るんだったら免許とか持ってんだろ…あんた、何しにこんなとこ来たんだ?」
頭が混乱してくる。
両手で頭を抱え込むと、痛みが走った。
「…あんた、A地区の人間だろ」
「え…?」
男はまた紫煙を吐き出した。