第16章 The beginning of the story6
俯いてる俺の手を翔がぎゅっと握った。
驚いて翔の顔を見ると、真剣な顔をしている。
「俺は、気にしてない」
「翔…」
「むしろ…羨ましいと思った」
「え?」
「…俺、家族の縁が薄くて…弟のシュウもB地区に入れられてしまうし、A地区では身内は居ないも同然で…」
少しだけ言葉を飲み込んで。
何かを考えているようだった。
「B地区に忍び込んできて…潤たちと出会って…3人見てたら、家族みたいだなって思って…」
ぐしゃっと俺の手を握ったまま、髪をかきあげた。
「…ごめん、俺も上手く言えないんだけど…なんていうか…あっちじゃ感じられなかった、家族ってもんが…ここにはある気がして」
いつの間にか教室の戸が開いていて、雅紀と智が戻ってきていた。
二人はじっとこっちを見て翔の話を聞いている。
「潤の過去に辛いことがあったのは、なんとなくわかってたけど…でもそれでも俺は…」
翔は俺の顔を見た。
そして、立っている雅紀と智の顔を順番に見た。
「不謹慎かもしれないけど、羨ましいと思ったんだ…」
「翔…」
「潤が俺を見て何かを思い出して苦しんでるってわかってても…ここに来ることをやめられなかった」