第16章 The beginning of the story6
ぎゅっと俺の手を握る手に力が入った。
「ごめん…潤には辛いことを思い出させた。全部俺のエゴで…」
「翔、それは違う…」
泣きそうになっている肩を掴んで顔をあげさせた。
「俺、大事なこと思い出したんだ…」
「え…?」
「俺は、嫁や娘を愛してた」
そう、愛してた。
とても愛してた。
俺の全て。
俺の人生の全てを捧げるくらい…愛してたんだ。
「でも、あんなことがあって憎しみでいっぱいになって、誰も信じられなくて…人から手を差し伸べられていたのに、それを受け取ることができなくて…」
握られた手を、握り返した。
「ここに来て…智や雅紀に傷を癒やしてもらって…そんで、嫁にそっくりな翔に出会って、やっと俺は思い出すことができたんだ」
人を愛するって、どんな幸せなことだったのかを。
「ありがとう…翔…」
「潤…」
入り口で立ち尽くしてる、雅紀と智に目を向けた。
「雅紀、智…ありがとう…」
2人に向かって手を差し伸べると、智がダッシュで俺の胸に飛び込んできた。
「ぐふっ…」
あんまりの勢いで、一瞬息ができなくなる。
「潤っ…もうっ…もうっ…」
「さと、苦し…」
ぎゅううっと首根っこに抱きつかれて、危うく絞め落とされるとこだった…
「家族にっ…なろうっ?」
突然、その姿勢のまま隣に座る翔の手を掴んだ。
「えっ?」
「潤がおとうさんで、雅紀がおかあさんでっ…俺、翔の弟になるっ」
「ちょっと待て…智のほうが年上じゃねえのか…?」
「そうだよ?智。それに翔にはシュウって弟がいるじゃん」
雅紀が笑いながら俺にしがみつく智の背中を擦ってる。
「なあんでもいいのっ…」
子供みたいに俺の胸板にぐりぐりと額をこすりつけると、そのまま動かなくなった。
ずるずると鼻水を啜る音が聞こえる。
「…ありがと…智…」
翔も智の背中を擦った。
雅紀は微笑んでソファの肘置きに腰掛けてそれを見守った。
「家族…いっぱい居るのが夢だったから…嬉しい…」
とても小さな声だったけど…
多分、翔の本心で。
いつまでもその声は
俺たちの耳に残った───
その日から、俺たちは家族になった。
【The beginning of the story6 END】