第2章 Club lunar maria
気がついたら、音楽は終わっていた。
拍手する人は居なかった。
「あ…智、俺…」
「ん?ダイジョブ…」
にっこり笑って肩を抱き寄せてくれた。
「カズでした!皆、よろしくな!」
え?カズ…?
カズって誰のこと?
智の顔を見ていたら、こそっと耳打ちしてきた。
「お前の芸名な」
「げいめい…?」
「ま、便利だから使っとけ」
「え?う、うん…」
智から顔を逸らして前を向いた瞬間、教室の中に音の渦が巻き起こった。
「えっ…なにっ!?」
それは拍手と男たちの叫び声だった。
「カズ!すげえ!お前、最高だよ!」
「いやああ…凄かったぜえ…百年以上前の曲、よく知ってたな?」
「また歌ってくれよ?」
「ああ…俺はまた聞きたいね…」
口々にこちらに向かって言っている。
「ホラ…お辞儀」
智にそう言われて、慌てて頭を下げた。
拍手の音が一段と高くなった。
そのまま智は俺の手を引いて、裏に連れて行ってくれた。
「やっぱ、すげえわ…ニノ…」
智が呆然と椅子に座った。
「全然さっきと違うのな…ステージだと…」
潤が俺の顔、じっと見てる。
「…そう?自分じゃわかんないよ…」
後ろから、そっと雅紀の手が肩を包んだ。
「お疲れ、ニノ…」