第2章 Club lunar maria
マイクスタンドの前に立つと、一斉にお客さんがこちらを見た。
潤が俺にスポットライトを当てた。
「お…新入りか?」
「オイオイ…歌えんのか?」
「随分かわいいじゃねえか!」
口々に男たちのだみ声が聞こえる。
お店の人たちよりも、下品なのかな…
元々暗かった部屋の中が、もっと暗くなった。
さっき智と一緒に歌ってた曲が聴こえてきた。
智も裏から出てきてステージに駆けてきた。
白い…世界…
見えるのは智の顔だけ。
客席は当たってるスポットライトが眩しくて見えない。
…知ってる
これ、知ってる…
智が俺の肩に手を載せた。
もうボーカルが始まっていた。
「どうしたんだよー!」
「アガって歌えねえのかよ!?」
そんな声が聞こえても、緊張するでもなく。
音楽が頭に突き刺さった。
智の声が鼓膜を揺らした。
その瞬間、喉から湧きいでるように声が出てきた。
智の声と音楽だけが聴こえた。
渦巻くような音の世界。
目の前に天国のドアが見えた。
”Knock, knock, knockin' on heaven's door…”
智がハーモニーを奏でてくれる。
ああ…気持ちがいい…
”ママ…僕の銃を地面に置いてくれないか”