第16章 The beginning of the story6
雅紀と智が出ていって、翔と二人きりになってしまった。
「どうしたんだろ…智…泣いてなかった?」
「あ?ああ…」
智は家族に恵まれていて、翔の言葉になにか感じたんだろうとは思うけど…
「智んとこは…家族が凄く智を助けて…智のあの障害、中学まで隠し通したんだ」
「えっ…中学まで!?」
「うん…普通だったら、もっと早くに政府にバレてるんだろうけど…智んとこは、違ったんだ。だから…」
「そっか…智、しあわせだったんだな…」
ごくりと水をコップから飲み込むと、少し遠い目をした。
「良い家族だったんだろうなぁ…」
「…だと思う。俺も実の家族は早くに死んだから…だから、羨ましいなって思うよ」
「そっか…」
俺も水を飲むと、カップをテーブルに置いた。
「…だから、翔の話聞いて、切なくなっちまったんじゃねえかな…もちろん、同情とかじゃなく…」
「ん…それは、わかる。智はそういう奴だもんな」
翔が笑って俺を見上げた。
「大丈夫。誤解なんかしない」
「うん…」
たった一年。
その間、翔がB地区に忍んできたのは数回だ。
その数回で、翔は俺たちの人と成りをもう把握してしまったみたいだ。
まあ、最初が最初だったしね…
でも、凄いことだと俺は思ってる。