第16章 The beginning of the story6
「公僕になるつもりだったけどね…ちょっといろいろあって、今はこんな流れ医師みたいなことしてるんだ…一応所属は、防衛医科大付属にはなってるんだけどね」
もしかしてそれは…シュウがB地区に来たことと関係あるんだろうか…
「大変だったんだね…」
雅紀が翔の肩に手を置いた。
「…いや…雅紀たちに比べたら、なんでもない」
労るような翔の言葉に、不覚にも涙がにじみそうになった。
親が居ないなんて…俺にとっては闇に放り出されたと同じだ。
俺がここで生きているのは、父ちゃんや母ちゃん、それに姉ちゃん達が必死にあの時まで守ってくれたからだ。
翔はそれを…なんでもないなんて…
「智…?」
翔が不思議そうな顔でこっちを見てる。
「なっ…なんでもないっ…食器片付けてくるっ…」
ガシャガシャと食器を回収して、給食室に持っていった。
「なに泣いてんの…」
雅紀がからかうように後ろから付いてくる。
「う…うっせー!ばか!」
「あら…今度は俺がばかになっちゃったよ…」
くすくす笑いながら、食器を水に浸してる。
シンクの中に落ちる水の音だけが聞こえた。
「…だって…」
「ん…?」
翔は潤と話しているのか、こっちにはこなかった。