第2章 Club lunar maria
「雅紀ー、居るかー」
部屋の戸が、前触れもなく開いた。
潤が部屋に入ってきた。
「あ…」
潤は立ち止まって暫く無言で俺たちを眺めていた。
「どうしたの?潤」
「ん…?いや…」
鼻の頭を擦ると、こちらに歩いてきた。
「ニノ、歌うまいんだって?ちょっと歌ってみない?」
「え…?」
「潤っ…!」
「いいだろ。なんか思い出すかもしれないし」
やんわりと、雅紀に抱きついている腕を解かれた。
その腕を掴んだまま、潤は微笑んだ。
「だめ?嫌なら無理にとは言わないけど」
いい香りが、潤から漂ってきた。
潤のはっきりした顔立ちに、凄く良く似合う華やかな香り。
「いい…よ?」
「決まり。行こう」
怪我をしていない方の手を潤が握った。
そのまま雅紀の部屋を出た。
雅紀も後ろをついてくる。
潤の手は熱くて、大きかった。
Club lunar mariaにつくと、潤は俺の手を離した。
中に入って行くと、たくさんの人が居た。
テーブルの上にはお酒と食べ物がたくさん乗っている。
皆、煩いほどの音の渦に身を任せて楽しそうだ。
店の奥にちょっとだけ高くなってるスペースが有って、そこが今日のステージのようだった。
マイクスタンドが一個、置いてあった。