第15章 The beginning of the story5
「俺のほうがここに望んできてるんだ。そんなこと、遠慮する必要ない」
突然、潤が立ち止まった。
「じゃあ、抱きしめていい?」
「えっ…?」
冗談を言ってるような顔じゃなかった。
「え…っと…」
「ほら、嫌だろ?」
ふっと笑うと、また歩き出した。
「せっかく俺たちを助けたいと思って来てくれた人の嫌がることは…できねえよ…」
「潤…」
「翔は、A地区に帰る人なんだから…」
突然、突き放されたような気分になった。
俺は…ここの人間じゃない
「ほんと、無理だけは…」
「いいよ」
ここの人間じゃないから、ここに居ちゃいけないから…
俺は、受け入れてもらえないのか
「…え…?」
「抱きしめて、いいよ」
潤の腕を取った。
そのまま抱き寄せた。
「翔…」
小さく、潤が震えた。
腰に腕を回して、より身体を密着させると潤の腕が俺の背中に回ってきた。
ぎゅっと抱きしめられる。
「嫌じゃ…ない…?」
呟く声が耳元で聞こえる。
「嫌じゃ…ないから…」
こんな風に、人と抱き合うなんて初めてだった。
多分…潤は俺に、松本翔子の面影を重ねてる。
でも、嫌じゃなかったんだ。
例え身代わりだとしても。