第15章 The beginning of the story5
「なんで…?翔…」
潤の声が震えてたから…そっと顔を見た。
「なんでこんなことさせてくれんだよ…同情…?」
「違う…そうじゃない…」
俺がこうしたいからしてるんだ。
潤の目が真っ赤で…
見ていたら涙がポロリと零れ落ちた。
「潤…」
綺麗だなと思った。
こんなきれいな涙、見たことがなかった。
その頬に触れた。
涙がまたぽろりと俺の手に溢れた。
あたたかい…
人って、あたたかいんだ…
突然、抱き寄せられた。
息もできないほどキツく抱きしめられたかと思うと、唇が重ねられた。
潤の身体から、昨日の夜使った石鹸の匂いがした。
その匂いが、愛おしいと思った。
腕を伸ばして、潤の身体を抱きしめた。
その体温が、もっと愛おしいと思った。
「翔…」
唇をつけたまま、呟く声も愛おしい。
人をこんなに愛おしいと思ったことはなかった。
「もっと…」
また唇を深く押し付けられて…
ああ…これは、キスだ。
俺、潤とキスしてる…
「ごめん…」
突然、潤の唇が離れていった。
「え…?」
なんで…俺、嫌じゃないのに…
「昨日の夜…歯を磨くの、忘れた…」
凄く情けない顔で言うから、おかしくなって。
「ぶっ…はっ…」
「しょ、翔っ…」
「なんで…今ぁ…」
「ちょっと…そんな笑うなよっ…」
「だってっ…ぶはっ…」
「もー…」
真っ赤になった潤に、また抱き寄せられた。
「翔だって…磨いてねえじゃねえか…」
「うん…忘れてた…」
「ばぁか…」
また、唇が重なった。
「翔…」
「ん…?」
「ごめん…」
「謝るなよ…」
「いや…その…見られた」
「えっ?」
後ろを振り返ったら、寝ぼけた顔の智と雅紀と目が合った。
廊下の角から顔だけだしてこっちを見てた。
「ぎょえ…」
「ご、ごめん…あの、顔、洗おうと思って…」
すごく恥ずかしい朝
「ねえ!潤なんで翔とちゅーしてたの!?」
「だーっうっせー!あっちいけ!」
でも、こんな朝は初めてだった。
【The beginning of the story5 END】