第15章 The beginning of the story5
「俺もにおがせてよ」
「におがす…?」
「雅紀、日本語ヘン」
「え?そう?」
潤の手首を智と雅紀で奪い合うようにしてて。
なんだか笑えた。
「ほら…翔に笑われてるぞ」
「ええー?だって…」
ああ…いいなあ…この雰囲気…
A地区じゃ…俺の居場所じゃ…
こんな雰囲気になることなんて、なかった。
いつもどこか薄ら寒くて…心から笑ったことなんか、ない。
気を許せる友達も、俺のこと気にかけてくれる大人も居なかった。
俺の居場所は、いつも俺一人。
”櫻井って孤児なんだろ…?”
”捨て子…”
”いくら勉強ができてもねぇ…”
寒い…
いつも寒い
「翔、風呂行こうか」
「え?」
いつの間にか潤が直ぐ側に立ってて、俺の顔を不思議そうに見てる。
「あ、ごめん…話、聞いてなかった」
「疲れたか?」
そっと潤の手が、椅子に座る俺の頭に乗った。
「いや…疲れてなんかないよ…」
「今日は早く寝ような」
気がついたら、雅紀も智ももう居なくて。
「あれ?二人は?」
「店の準備行ったよ。ほんとぼーっとしてたのな」
「あ…ごめん…」
「なんで謝るんだよ」
くすくす笑いながら、俺の髪をくしゃっと撫でた。