第15章 The beginning of the story5
この一年、時々B地区に潜入して住人たちと親交は深めてきたけど、潤には深く立ち入ることはできなかった。
”翔子”
潤の亡くなった奥さんに、俺がそっくりだったから。
「なんでも…ない…」
気まずそうに逸らす目は、いつも憂いを帯びていて。
自分が何をしたわけでもないんだけど、いつも申し訳ないような気持ちになる。
「あ、食べ物なら、ちゃんと持ってきたから…」
「え?ああ…いいのに…」
「レトルトのもの、いっぱい持ってきた」
「そんなの食ってたら、身体壊すぞ?」
苦笑いした顔が、少し悲しく見えた。
息が止まるかと思った。
こんなにそっくりな人間が存在するのかって…
松本翔子の写真は、しあわせそうに微笑んでいた。
潤に凭れるように身体を預け、信頼しきっているように見えた。
しあわせな夫婦にしか見えなかった。
まさかこの後、あんなことになるなんて…思えないほど。
潤が政治活動に走った理由もわかって、調べることはなくなった。
だけど俺は…
あんまりそっくりで忘れられなくて…
パンドラの箱を開けてしまった
「翔…?」
「…え?」
「晩飯、用意するから…そんなの食べなくていいからな?」