第12章 The beginning of the story3
「じゃあ、それで出生届出しておいてくれる?いつまでも名前がないままなんて可哀想だから…」
本当は一緒に出しに行く予定だったけど…
翔子は嬉しそうに微笑んで手を伸ばしてきた。
その細い手を取ると、ぎゅっと手のひらを握った。
「わかったよ…出しておく…」
頭が現実に追いついてこなかった。
ただひたすら、翔子に事実を隠すことに必死だった。
「夕ちゃん…早く会いたいな…」
それから10日、翔子は入院した。
やはり身体が弱っていたから、普通の人よりも回復に時間が掛かった。
「ふう…まだお腹の傷が突っ張るよ…」
「無理するなよ…」
退院するとき、見送りに来てくれた職員さんたちは、まだ翔子に事実を告げていないことを知っていたから、何も言わずに送り出してくれた。
「潤、早く夕ちゃんの病院いこう?」
「その前に、一回家に帰ろうな」
早く子供に会いたがってる翔子を宥めるのに苦労した。
やっとの思いで家に帰ってくると、翔子は顔色が変わった。
「ねえ…潤、なんで赤ちゃんのものがないの?」
あんまり…
一人で家にいる時間が辛すぎて
目の届かないところに新生児のものは片付けてしまった。
翔子がすぐに気づいてしまうなんて、思ってなかった。