第12章 The beginning of the story3
気が狂いそうだった。
翔子にどう話していいのかわからない。
誰も、答えなんて持っていない。
助けて欲しかった
救って欲しかった
おばさんは、心労のあまり具合が良くなくて臥せっている。
近いうちに横浜に帰って貰おうと思っている。
これ以上、迷惑は掛けられなかった。
いや…それ以上に…
もう翔子以外のことで何かに煩わしい思いをしたくなかった。
何にも心を動かされたくなかった。
翔子さえ居れば…翔子さえ生きていれば…
苦しい思いから逃れるように、俺はそう思っていた。
「ねえ…潤?」
「…ん?」
「名前、考えたの?」
「あ、ああ…」
出生届と、死亡届。
これに赤ん坊の名前を書かなきゃならない。
何が届けだ。
俺達から奪っておいて…
何を憎んでいいのかわからない。
何を恨んでいいのかわからない。
「ゆう…」
「え?」
「ゆう、はどう?」
「…どんな漢字を書くの?」
「うーん…結ぶ…優しい…どっちでもいいな…」
「そうか…」
頭の中に浮かんだのは、夕日だった。
儚く散っていった娘は…
もう昇ることのない太陽だった。
「夕日のゆうにしようか…」
「え?潤はそれがいいの…?」
「うん…」