第12章 The beginning of the story3
「松本翔子さんのご家族は!?」
「あ、こっちです!」
ただならぬ気配に、緊張が走った。
「ちょっとお産が進んでいませんので、帝王切開に切り替えます」
「えっ…?!」
一体、なにがなんだかわからなかった。
医師も後から出てきて説明をしてくれたが、このままだと母体も子供も危険とのことで、一刻も早い出産が望ましいとのことだった。
「…わかりました」
「では、帝王切開に切り替えます」
手術同意書にサインをすると、後はすることがなくなった。
この病院は分娩室がそのまま手術台になるので翔子の姿を見ることもできなかった。
手術室に切り替わった分娩室の前。
ベンチにおばさんと座りながら、ただ時が過ぎるのを待っていた。
「潤くん、大丈夫よ…」
「おばさん…」
「今からそんな顔してちゃだめよ?翔子ちゃんも子供も、今頑張ってるんだから」
「うん…」
ぎゅっと手を握りしめて、ざわめく心を鎮めようとした。
中にいる翔子のほうが、よっぽど不安なんだ。
だから俺がもっとしっかりしないと。
時間が過ぎるのが遅かった。
こんなに遅いと感じたのは…
親が死んだ時以来だ。
嫌な予感を振り払うように立ち上がった。
自販機にコーヒーを買いに行って落ち着こうとした。
けど、だめだった