第12章 The beginning of the story3
医師にどれだけ妊婦が大変なものか、出産とは命がけのものなのか噛んで含めるように言い聞かせられ、そして今の状態が如何に母体にも胎児にも危険な状態なのかを、懇切丁寧に教えてもらった。
あんまり静かに医師が怒っているから、ずっと相談室にいる間は緊張しっぱなしだった。
そして医師の言うことを逃さぬよう、記憶した。
「…お子さんの性別知りたいですか?」
最後に、やっと医師は笑ってくれた。
「あー…翔子?大丈夫?」
病室のドアをノックして中に入る。
ドアには”面会謝絶”の札が出ていた。
今は夫である俺しか面会できない状態にしてあるとのこと。
「潤…うん、まだお腹張ってるけど…でも大丈夫…」
翔子はベッドの中で弱々しく微笑んだ。
色白の頬には血の気がない。
大きくてくりくりした目が潤んでいた。
「切迫気味だから、絶対安静だってよ」
「うん…」
「…ごめんな。俺、無理させちゃったな…」
「ううん。無理なんかしてないのになあ…」
心のなかで義理の両親にも手を合わせた。
数ヶ月前、嫁の両親は事故でこの世を去っていた。
そのストレスもあるのだろう、と医師は言った。
そしてまた、心の中で俺の実の親にも手を合わせた。
こっちはとっくに、俺の小さい頃に亡くなってる。
嫁と子供の無事をお願いするのも些か気が楽だった。