第2章 Club lunar maria
踊り場を一つ越えて、もう一度階段を登ると二階に出た。
かすかに物音が聞こえている。
廊下に出ると、薄暗い。
左右どちらの教室のドアと窓は全て外されている。
教室の内側にカーテンが引かれて、中は見えない。
「オープンの時間は19時だよ。そしたらこのカーテンが皆開いて、面白いよ」
雅紀がゆっくりと歩きながら説明してくれる。
看板のようなものが出ているわけじゃないけど、食べ物の匂いのするところもあった。
ふと、雅紀を見上げる。
とっても優しい顔で笑ってる。
目尻にシワが浮かぶくらい、くしゃっと笑ってる。
きゅっと握った手に力を入れる。
「ん?どうしたの?ニノちゃん」
「なんでもない…」
こうやって手を繋いで歩いてもらったことが、あっただろうか…
なんだか初めてのことのようで、やたらと安心する。
人の…ぬくもり…
雅紀の…ぬくもり…
廊下の一番奥にある教室の前に立った。
雅紀はなんにも言わないで、カーテンを押し開けて中に入っていった。
「入るよー」
中に入ると、薄暗い照明が点いていた。
「あれ?どうしたの?早いじゃん」
「ん。今日はこの子にお店見せてあげようと思って」
「へえ…誰?見ない顔だね」