第11章 The beginning of the story2
会議室を出ると、井ノ原さんの姿を探した。
隅の方に居る彼は俺を手招きした。
「どうでした?」
「井ノ原さん、さっきのお話…」
「ええ。先方からのお話、聞いてみますか?」
「会わせてください、アースノール社の人に」
井ノ原さんはにっこりと微笑んだ。
アースノール社は最近急成長を遂げている、バイオ系の企業だ。
前政権の頃は、肥料屋だったらしい。
だが、新政権発足後から急激に業績を伸ばして、いまや日本中に工場やラボを持ち、発電所や病院経営にまで乗り出している。
どうやら新政府と太いパイプがあるようで、それを利用してどんどんM&Aをかけながら急成長を遂げた。
その手法が、少々強引で…
いい噂どころか悪い噂ばかり流れてくる。
井ノ原さんは、このアースノールの産業スパイだと言った。
俺にこんな話を持ちかけて来る時点で、そうではないかと思っていたが…
さすがアースノールだと思った。
やることが汚い。
俺のやってる研究が価値の無いものだと工作したのは、多分井ノ原さんだろう。
だが、これでよかったと思ってる。
なぜなら、アースノールしか…
俺の望む研究をできないからだ。