第11章 The beginning of the story2
「倫理…?ふ…そういうことは、実験を成功させてからおっしゃってください」
袖に光る銀のカフスが眩しい。
上質な真紅のネクタイを締めながら、その人は笑った。
「生命に対する冒涜…それも、成功してからクリアすればよろしい」
ネクタイピンを留め直すと、その人は微笑んだ。
「長野博士…我々が求めているのは、常に結果です。…おわかりですか?この意味が」
坂本と名乗る人物は、そう言い放った。
ここはアースノール社にほど近い、場末の喫茶店だ。
古いジャズが流れている。
ベルベット調のソファは年季が入っていて、所々にタバコの焦げ跡がある。
やや暗い店内に、曇った陽光がぼんやりと差し込んでいる。
「私の欲しいのは、私の望む結果を生み出す科学者だけです。あなたはその対価をお持ちなのか?」
そっちから誘ってきたくせに、こんなことを言う。
「…まだ未発表のヒト由来のタンパク質を持っています」
「ほう…それがどのような価値のあるものですか」
「ホムンクルスの生成に、必ず必要なタンパク質になります。いや、その主成分になり得る」
「それはお宅の企業のものか」
「…知っているのは、私の研究チームだけです」
キラリと坂本の目が光った。
「そのタンパク質は、本当にホムンクルスを生み出しますか?」
俺は笑って頷いた。
これで、決まった。