第2章 Club lunar maria
「凄いね…ニノちゃん、歌手だったのかな?」
歌い終わると、智がハイタッチしてきた。
「わからない…けど何か思い出せそうなのに…」
雅紀は俺の手をぎゅっと握った。
「いいよ。ムリしないでね…」
「うん…ありがとう」
智を見ると、またにこにこしてる。
「ニノすげえな!俺の声とそっくりだ」
「智も…どこかで歌の勉強してたの?」
「え?俺?そんなもんしてないよ!俺、字よめないから!」
「えっ…?」
「だから…俺、B地区に入れられたの」
「だ、だってそんなの勉強すれば…」
考えられないことだった。
日本は識字率100%だって、誰か言ってた。
字の読めない日本人なんて居ないと思ってた。
「…なんかね、そういう障害なんだよ…」
「えっ…」
「脳の機能障害だってさ」
智は、小さいころは軽度の学習障害だと思われていた。
ひらがなまではなんとかなったそうだけど、複雑になったり長文になったりすると読めなかったらしい。
ディスレクシアという病気なんだそうだ。
「それがね…わかってから家族は必死でかばってくれたんだけどね…中学で、政府にバレちゃってね」
それでここに連れてこられたと…
「字読めなくてもさ、口で言ってもらえば覚えるんだけどさ…それでもダメだって言われてさ」
ちょっとだけ、暗い顔をした。