第2章 Club lunar maria
「ね?いいでしょ?潤…」
智が俺の頭に手を載せたまま、振り返る。
「…わかった…翔に相談してみる…」
「良かったね、ニノ」
ぽんぽんと頭を撫でて、智は離れていった。
「じゃあご飯できるまで座ってなよ」
「あ、そうだね…ニノちゃん歩ける?」
「うん…」
雅紀の腕に掴まったまま、イスに座らされた。
座ってもずっと肩を抱いていてくれた。
「…何か思い出したの…?」
「ううん…そういうわけじゃないんだけど…」
「そっか…まあ、こんなところに入ってくるくらいだから、なんか訳があるんだろうけどね…」
雅紀は温かい…
なんでだろ、ほっとする…
冷たい…そう、冷たい肌しか俺は知らない。
「あ…」
教室の中に音楽が掛かった。
それはどこかで聴いたことのある曲だった。
自然と歌が溢れだす。
「ニノちゃん…?」
俺が歌い出すと、智がひょっこり奥のカーテンから顔を出した。
「ニノ、歌えるの?」
それには答えず、思い出せる限り歌った。
何も考えなくても、思い出せた。
喉が覚えてる。
突然、高音の歌声が聞こえた。
俺の声と響きあって、歌の世界を彩る。
伸びやかなハイトーンの声は、俺の声とそっくりだった。