第9章 HEAVEN
その日の営業が終わって、クラブには俺達だけになった。
シュウは上機嫌で酒をしこたまのんで、千鳥足で帰っていった。
今日のバイト代と飲み代は差し引きゼロということで話がついた。
「ちゃっかりしてんな…シュウのやつ…」
翔がぶちぶちいいながら、店の勘定を数えてる。
「ふふ…ありがとうね。翔」
「いや。このくらいこれからはやらせてくれ」
「助かるよ。電卓いらないもんね」
「このくらい暗算できないでどうすんだ」
「それは翔の頭だから可能なんだよ」
「はあ?」
智と俺で洗い物を済ませてフロアに出る。
フロアではニノがアコースティックギターを爪弾いていた。
潤は隣で椅子に凭れて酒を飲んでいる。
「皆、なんか飲む?カクテル作るよ」
そう声を掛けるとみんな喜んでくれた。
「雅紀の作るカクテルは本格的だもんな」
智がにこにこしてグラスを磨いてる。
翔はお金の束を金庫に片付けると、ふうと一つ息を吐いた。
「お疲れ様。翔」
「ん?いや…別にこのくらい」
「いや…それだけじゃなくて…」
「うん…?」
多分、この5年で一番苦労をしたのは翔だろう。
でも本人はそんなこと一言も言わないで、ニノが出してくる奇策を実現すべく、粛々と動いてくれていたように思う。