第2章 Club lunar maria
「あ、ニノ元気になった?」
智がふきんを放り投げて歩いてくる。
俺の額に手を当てると、にっこり笑った。
「熱さがってる!」
「お、良かったな」
潤も俺の額に手を当てた。
「これならいいな…後でA地区に送り返してやる」
「えっ…」
「そうだね。早いほうがいい」
「今はちょっと忙しいから、夜中にな。そのほうがバレないし」
…嫌だ…
…帰りたくない…
「ニノ!?どうしたの!?」
智が俺の肩を掴む。
「顔色悪いぞ…どうした?」
潤が俺の顔を覗きこむ。
「ニノちゃん?どうしたの?」
雅紀の心配そうな声が聞こえる。
「か…かえりたくない…」
「えっ…?」
雅紀の腕に縋り付いた。
「怖いよ…俺…」
そう、怖いのだ。
なぜだか怖い。
帰りたくなかった。
あの声…
低いあの声が蘇る。
いうことをきけ
またあの声に支配されるなんて…
「ニノちゃん…」
雅紀がそっと俺の身体を抱きかかえてくれた。
力が抜ける。
雅紀に体重を預ける格好になってしまった。
「…しょうがねえなあ…」
潤が緩くウエーブの掛かった髪をかきあげた。
「じゃあ、なんか思い出すまでここにいたらいいよ、ね?」
智が俺の頭を撫でた。