第8章 ユメノドリーム
テントの中からのぼんやりとした灯りが、辺りを照らしている。
大きなテントと小さめのテントが一張ずつ設置してある。
人の気配は、大きなテントからしかしなかった。
暫く観察してたら、中から一人じいさんが出てきた。
顔を真赤にしたハゲ面。
足元がふらふらしてる。
そのままテントから離れて、近くの木の根本まで歩いて行く。
たぶん、ションベンだろう。
ちびってるとこ悪いが、ちびらせてやろう。
ニノを見ると、こくんと頷いた。
白いシーツで作った服をそっと被ると、木の陰からじいさんに近づいていった。
頭にはぼさぼさのロングのヅラ、顔は恐ろしい白塗りで口から血を垂れ流してる。
目の下のクマはご愛嬌。
ふわっとした足取りでじいさんの側に近づくと、いきなり立ちあがった。
じいさんは反応鈍く、ニノのほうを見た。
暫くじいさんは固まった。
じーっとニノの方を見てる。
ニノもじーっとじいさんを見てる。
ションベンの垂れ流れる間抜けな音だけが響いた。
その間も、テントの馬鹿騒ぎは絶えることはない。
やがてションベンの音が途切れると、じいさんは前も閉めないで身体を翻した。
俺は、ニノとじいさんが見つめ合ってる間に、ニノとは反対側の木の傍に立った。
ちょうど身体を翻し駆け出そうとしたじいさんと目があった。
また、じいさんはじーっと俺を見た。
俺もじいさんをじーっと見た。
「――――っぁひゃっ…」
声にならない声を上げて、じいさんはテントに一目散に駆け出した。
智がテントの後ろから、姿を見せた。
智も俺も、ニノと同じような姿をしている。
ゆらりとテントの後ろに立っている智は、手を前に突き出してゆらゆらしてる。
おい…今時、そんなおばけいるかよ…
「ぐう…」
じいさんは智の姿を見た瞬間、その場に崩れ落ちた。