第1章 Area B
「これ…見たことある」
「でしょ?それ、飲む?」
「うん。ありがとう、雅紀」
にっこり笑うと、雅紀も冷蔵庫から飲み物を出した。
二人でソファに腰掛けると、暫く無言になった。
「雅紀はさ…」
「ん?」
「なんで…B地区に来たの?」
「ああ…」
聞いちゃ…いけなかったかな…
でもずっと気になってた。
潤も智も雅紀も悪い人には見えなかった。
なんでここにいるんだろう。
障害があるようには見えない。
どんな罪を犯したんだろう。
「俺は…ゲイなんだ」
「えっ…」
「安心して、ニノには手を出さないよ…」
そう言って雅紀は笑った。
「小さい頃からそうでね…高校生の頃にバレて、ここに入れられた…」
「そうなんだ…」
ゲイの人を間近に見るのは初めてだった。
それはテレビの世界のことだった。
同性愛はきつく戒められていて、俺の住む世界にはおとぎ話のような存在だった。
「後ちょっとで日本から脱出できそうだったんだけど…アメリカに行けば自由に暮らせるからね…でも間に合わなかった」
「そっか…」
ゲイは汚いものって言われてたけど。
でも全然雅紀は汚くない。
なんでだろう…むしろ綺麗…
悲しそうに笑う雅紀に、心が痛んだ。