第6章 YOU
ビクリと肩を震わせると、壊れたレコーダーのようにしゃべっていた口が閉じられた。
「論点がずれています…今は、余計な情報は要らない。ニノは…どうなったんです」
血走っていた目を庭に向けると、諦めたように息を一つ吐き出した。
「……ニノの左脳は壊滅的なダメージを負っていた。でも右脳は使えそうだった。だめなら次の脳を移植すればいい。だから…」
「左脳だけ、移植したんですか…」
「成功した。成功したんだ」
「でも、ニノは逃げ出した」
「ニノは…ニノではなくなっていた」
「だから…そこを説明してください」
「左脳の人格が…現れた」
「えっ…」
「それはウチのチームの誰もが予測していなかったことだ…だから慌てたんだ…」
メガネを外すと、机の上に置いた。
目頭を指で押さえると、暫く黙りこんだ。
「…移植した脳は…普通に生きてきた33歳の男のものだった…ニノじゃなくなっていたら、辻褄が合わなくなる…だから、俺達はニノを呼びだそうと、右脳の活性化に必死になった…」
脳には、まだ現代科学でも及びも付かないことがたくさんある。
右脳と左脳が別人のものだとして、果たして脳として機能できるものなのか…