第6章 YOU
「言うから…頼む…座ってくれ…」
さっきとは打って変わって、背中を丸めたまま俯いている。
「櫻井さん…今から言うことは、事が終わったら忘れて欲しい…できるか?」
「それは…内容次第ですね」
ここで下手に出たら、長野からは永遠に理由とやらを聞き出すことはできないだろう。
あくまで対等な位置に立って居ないと、精神的優位は保てない。
長野博士が重い口を開いた。
「今のニノは…ニノであってニノではない」
「え?どういうことですか?」
「数カ月前、ニノはラボのビルから飛び降りた」
「飛び降りた…」
「自殺だ…」
「なんで自殺なんか…」
長野博士は前髪をぐしゃっとかきむしった。
「必要だったんだ…ホムンクルスを再び生み出すための研究費用が…!あんたも医者の端くれならわかるだろう!?」
研究には莫大な金が掛かる。
世の研究者にとって、金と論文、そして結果。
これほど重いものは他にはないのだ。
「ニノを…売ったんだ」
「売った…?」
「そうだよ…身体を売ったんだ。世の中にはな、あんな人形でも抱きたいって変態親父は腐るほど居るんだ」
「それは…本人の同意を得てのことですか…」
「だからっ…あいつは人形なんだっ…!ラットと変わらないんだっ…!」