第6章 YOU
何度もその拳を机に叩きつけると、また叫んだ。
「金なら数年後になるかもしれないが、いくらでも払う。だから…」
「待ってください」
低い、声を出した。
「僕が言ってるのは、理由です。なぜ秘密裏にB地区に居るニノを連れ出す必要があるのか、それを教えてくれと僕は言っているんです…冷静になってください。金は、いりません」
レンズの奥の目は表情がない。
ただ、血走って潤んでいる。
「理由を聞かせて貰わないと、協力することはできません」
暫く座敷に沈黙が流れた。
仲居すら、近づいてこないこの空間。
人払いをしているのだろう。
いつまでも口を開かないから、俺は立ちあがった。
「聞かなかったことにしましょう…」
そう言って立ち上がると博士に背を向けた。
「…待ってくれ…」
弱々しい声が聴こえるが、構わず襖に進む。
「待ってくれ!」
強い声に立ち止まると、震える声が聞こえた。
「理由を言えば…ニノを連れ戻すのに協力してくれるのか」
「それは…理由に寄りますね」
「…そう言い切れるということは、伝手はあるんだな?」
「心当たりはあります。だけど、その理由がとんでもないものなら、手を貸すように依頼することはできません」