第6章 YOU
そうだろう…
政府直属の諜報機関であるスエードの一員である俺だって、そう頻繁に行き来できる場所じゃない。
今の日本では捨て去られた場所だが、同時に潔癖ヒステリーの奴らからしたら恐ろしい地獄と同等の意味を持つB地区。
軍部の力で維持している。
防衛省の管轄になっているからだ。
自衛隊から日本国の軍隊となって結構経つが、管轄は防衛省のままだ。
あくまで自国を守る軍隊というスタンスは崩していない。
流石に軍部とは癒着できないでいるのか…
ちらりと長野博士は庭を見た。
また鹿威しが鳴った。
「櫻井さん…どうにか防衛省に渡りをつけることはできませんか…?それも極秘に…」
「なぜ…?アースノールや長野博士のお力を持ってすれば、そんなこと容易じゃないんですか…?」
「秘密裏に戻さないといけないんです」
「だから…なぜなんですか?秘密にしなきゃならない理由は…教えてもらえないと、僕だって協力することなんてできませんよ?」
長野博士の腕が、茶托と湯のみを弾き飛ばした。
カラン…と座敷の隅で湯のみが壁にぶつかる音がした。
「…金を…積めばいいのか」
目が血走って、焦点が定まっていない。
荒い息を吐きながら、博士は机の上で握りこぶしを作っている。