第6章 YOU
「すいません、お時間頂いて」
「いえ…どうかされましたか?」
夕方、アースノールの食堂で長野博士と落ち合った。
中庭に面したそこは一面ガラス張りで、広々として見える。
緑の芝生を眺めながら席についた。
「櫻井さんは、宮内省病院にお勤めでしたね…」
「ええ…非常勤ですが」
「…そうですよね…」
「なにか?」
「いえ…あの、防衛省の方にも?」
「ええ…僕は常勤を持ちませんので、大学の先輩からお声がかかれば、非常勤で勤めることもあります。防衛医科大付属にも行ったことはありますよ?」
「そうですか…」
「なんですか…はっきり仰ってください」
長野博士は、以前来た時に比べてやつれている。
髪もぼさぼさだし、顔色も悪い。
「ニノになにかあったんですか…?」
ぎくりと俺の顔をみた長野博士は、怯えた表情をしていた。
「どこか…悪いのですか?」
知っているけど、知らないふりというのは大変だ。
「いえ…そうじゃない」
ため息を付いて、長野博士は中庭に目を遣った。
「ニノは…元気です」
「そう…ならよかった。じゃあなにが問題なんです?」
長野博士は視線を戻そうとしなかった。
「…僕にできることがあれば、お力をお貸ししましょう」
ちらりとこちらを見た博士の目は、小狡く光っていた。