第5章 深遠の記憶
じゅんが身体を離して僕の顔をじっと見た。
「ニノは知ってる?身体に障害があると、A地区では生きていけないこと…」
「うん…法律の本で読んだ…」
「俺の子供はね…女の子だったんだけど…生まれた時に障害があるってわかって…」
じゅんの顔が苦しそうに歪んだ。
「殺されたんだ」
「えっ…」
「A地区ではそれが許されてる。障害のあるものは排除されて当然なんだ。このB地区にも障害を持つ者が大量に収容されてる…」
「じゅん…」
僕はじゅんの手を握った。
どうしてそうしたのかわからないけど、そうしなきゃいけないと思った。
「だからね…ニノ…死んでおけばよかったとか、そんなこと思わないでくれ…生きたくても生きられなかった命が、たくさんあるんだ…」
「…ごめんなさい…」
じゅんは笑って僕の頭を撫でてくれた。
「あの…」
「ん?」
「”おかあさん”は?」
「え?」
「じゅんの子供の”おかあさん”…」
「ああ…」
じゅんは暗い顔をした。
「死んだよ」
「えっ…」
「赤ん坊を殺されて…おかしくなって…」
校庭の先、真っ暗な闇を指差した。
「崖から飛び降りて…死んだよ」
僕は思わずじゅんに抱きついた。