第5章 深遠の記憶
「僕が死のうとしなかったら、カズは安らかに死ねたのかな…」
「ニノ…」
「僕を死なさないためにカズの脳を移植したんでしょう…?だったら、僕はカズが死ぬのを邪魔してしまったんだね…」
じゅんは立ち止まって繋いでいた手を離した。
そのまま僕の肩を掴むと、顔を近づけてきた。
唇が触れ合った。
「じゅん…?」
「これはね…あなたが好きですって意味だよ」
「これが…?」
もう一度じゅんは僕と唇を合わせた。
「死んでしまったら…こんなことできなかった」
「じゅん…」
「ニノは…人間として生きたかった。それがここならできるかもしれない。それでも死にたいか?」
「ううん…死にたくない…」
「カズはね、長い間母親の呪縛から逃れられなかった。そしてその母親が死んでしまった瞬間、どうしていいかわからなくなったんだよ…」
「ははおや…」
「でもカズはね、ここに来て死にたくないって言ったんだ…本当は、生きたかったんだと思う」
「そうなの…?」
じゅんは僕を抱きしめた。
ぎゅっとその広い胸に僕を包んでくれた。
「俺にはね…子供が居たんだ…」
「子供…」
「そう。俺はね”おとうさん”だったんだ」