第1章 Area B
頭の側面を翔は押さえた。
「でも、内出血してるようでもないし…打ちどころが悪かったのかも…」
「え?そんないい加減なの?」
潤が覗き込んできた。
「…脳のことは、わかってないことが多いんだよ…大して酷く打ちつけたわけじゃなくても、死ぬことだってあるんだから」
「ふうん…」
そっと潤の手が、頭の側面を触った。
あ、やっぱり。
同じ香水の匂いだ…
「どうやったら思い出せるの?」
「それはね、やっぱりわからないんだよ」
「だよね…」
「2、3日で思い出すケースもあるし、10年経って思い出したケースもある。もしくは一生回復しないか、だな」
「…どうする?」
「まあ…様子見るしかないな…こればっかりは」
「翔…」
「そんな顔すんなよ、潤。そろそろ開店準備だろ?」
「ああ…」
「じゃあ、ニノ」
「あ、うん…ありがとう。翔」
翔はにっこり笑って手を上げた。
「送りはいいからな、潤」
「校門まで送るよ」
そう言って二人は部屋を出て行った。
「後で雅紀来るから」
そう言い置いて。
また俺はベッドに横になった。
ペンキの禿げた天井を見ながら、思い出せない頭をまたフル回転させてみた。
やっぱり、ダメだった。