第5章 深遠の記憶
まさきの部屋の中はしーんとした。
「ねえ…僕はなんで繁殖もしない性行為をしなきゃならないの?ホムンクルスだから?」
「ニノ…」
「人間じゃないから…?人形だから…?」
「ちがう…ニノ…違うよ?」
「あんなことが快楽なの?僕わからない…」
ドクターが掴んだ肩をぎゅっと握った。
「それは…長野博士は知っているのか?」
「長野博士は試したんだって…僕はあそこの具合はいいんだって…」
「なんで…」
そのままドクターは口を手で覆って黙ってしまった。
「融資をしてくれるって…おじさんが…」
「…嘘だろ…」
じゅんが真剣な顔をして僕をみた。
「なんで…ニノはそれを聞いたの?」
「僕は眠っていたけど…その日はバイクの免許を取ったから興奮してて…身体は動かなかったけど、起きてたの…」
「眠ったニノを売ってたってことか…」
「売った…?僕を売ったの…?」
なにも答えてくれなかった。
さとしの顔を見ても、まさきの顔を見ても誰も答えてくれなかった。
最後にドクターの顔を見たら、僕の顔をじっと見て目を閉じた。
「…絶対に…戻さないから安心しろ…」