第5章 深遠の記憶
とにかくなにかからかわれたんだと思って僕は飛び出した。
「ひどいよ…さとし…」
走っていたら、後ろからまさきが追いかけてきた。
「ニノ!待って…」
僕の腕を掴むと、ごめんと謝る。
「別にいいよ…僕のこと笑ってたんでしょ…」
「ち、違うんだって…ニノがねあんまりにもこれが似合うからさ…」
「でも、普通の人が着るものじゃないんでしょ!?」
「かわいいの!」
「え?」
「みんなニノがかわいいから笑ってたの。バカにしてたわけじゃないんだよ…?」
「そうなの…?僕わかんない…」
掴んだ腕を手繰り寄せられて、僕はまさきの腕に包まれた。
「そうなの。だからそんなに怒らないで?」
「…怒ってなんか…」
大体、怒るってなんなの…?
僕にはよくわからない…
「怒ってるでしょ?教室飛び出したり、俺の顔見なかったり…」
「それが怒るってことなの…?」
まさきを見上げたら、ひとつ頷いた。
「それも怒ることの一種だよ」
ひとつ、覚えた。
怒るって何種類もあるんだ…
「さ、俺の洋服貸してあげるから、おいで」
まさきが腕をほどいて僕の手を握った。
素直に僕も握り返した。
「ありがとう、まさき…また、教えてね?」