第7章 貴方の一番になりたい
「十四松くん」
秋の夜長に大きなイチョウの木の下、私は憧れの人を呼ぶ。
おっきい月、雲のない夜。
澄んだ空気は星の本当の数を教えてくれる。
一つ、二つ、三つ、キラキラと夜空にこぼれた星を数えてるフリをして私は上を見つづける。
そして彼、十四松くんもまたぼんやりと空を見つづける。
一つ、二つ、三つ、指をさしながら星を数えていく。
けれどどんなに澄んだ夜でも、都会の真ん中で見える空には限界があって星全てを映すことはできない。
ほら、もう数え終わってしまった。
今日も彼はなんだか元気がない。
大きな口を閉じてぼんやりと空を見る。
私は彼の横に座って同じように星を見る。
黄色い月、おっきくて、丸くて、優しい光が降り注ぐ。ちらりと横を見れば、月の優しい光を瞳に宿しながら彼は寂しそうに笑った。
ーーごめんね、十四松くん...私、もう十四松くんに会えない
その日は雨が降ってた。
とても冷たい雨が...。
彼が赤いスカートを着た女の子に告白した日。
その日から彼の元気は失われて、でもなんでもないふりをして他の兄弟達に心配かけまいと笑ってる。
そんな彼を少しでもはげましたいのに、私は言葉を話せないから、だから...。
「...君はいつでも黄色いね?どうして?」
こてんと私に寄りかかり、貴方はそう言うけれど私には答えられない。
「まだ皆は緑なのに、どうして君だけ黄色いの?」
伝えたいのです。
でも伝えられないのです。
「僕と同じ色」
黄色いパーカーを伸ばして貴方は私に見せてくれる。
私は貴方と同じ色に染まる事くらいしかできないのです。
「不思議な子だね?」
柔らかく笑ってくれた。
けれど、違う。
私が見たいのは、貴方が太陽みたいに笑う所。
そしてまた夜がふけていく、朝日が登る前に見送る背中。
明日も明後日もここで待っているから...。
貴方の色に染りながら...。
だからどうか、貴方が笑ってくれますようにと月に願いましょう。
ー月とイチョウと愛しき貴方ー