第7章 貴方の一番になりたい
「あのさ、猫になりたい」
「はぁ?」
いきなり訳の分からない事を言い出す、オレの彼女(本当に存在しているのかは謎)。
オレの膝元で転がるエスパーニャンコと、そこら辺でとってきた猫じゃらしで楽しく戯れてたらいきなりの言葉。
「いや、物理的に無理だから」
「そんなのわかってる、でも猫になりたい」
思った事を返したら、その言葉をぶった斬ってくるからどうしていいかわかんないんだけど?
「そんなのオレだってなりたいんですけど」
ゆらゆらと猫じゃらしをゆらしながら、自分の願望を青い空に言うふりして透に伝える。
すっごい関係ないけど、でっかい入道雲。
もくもくとデカい入道雲をみてたら、帰ってきた答えがこれ。
「二人とも猫になったら、誰が面倒みるの?」
今でさえも面倒みてもらってるニートに、その質問は愚問だと思う。
「いいじゃん、野良で」
「やだ、家猫がいい」
頑として家猫がいいと譲らない透。
果たしてその理由とは?
「考えてみなよ、ご主人様にちょっと甘えたら温かい寝床とご飯を貰えるんだよ?最高じゃない?」
だらーんと床に寝そべりぐーっと伸びをし始める透。ニートの俺が言うのもなんだけど、それクズの考え。
「...猫だって忙しいと思う」
「どこが?」
ふあっと欠伸をしながらきいてくる。
今のままでも充分に猫じゃない?
「たとえば、ご主人様が寂しくなったらそばにいなきゃならないとか...」
「じゃあ、逆に猫が寂しかったら?」
早い返しにちょっとびっくりした。
ああ。そう。言いたい事わかった。
ぽんぽんと膝のエスパーニャンコを優しく叩いて、降りてと合図をすればひらりとそこをどく賢い子。
目の前の子とは大違い。
「ご主人様が猫を膝の上に乗せる」
「ほほう?お邪魔しても?」
「ええんですかい?高いでっせ?」
ニヤリとお互い笑った後に、膝の上をさっきより少し重い猫が占領する。
「兄さん、ええ乗り心地ですわ」
「そりゃよかった」
そっと頭を撫でて、ぼうっと入道雲を見つめる。
ふあふあ空に漂う雲。
おだやかな日常に、愛しい猫1匹。
ー野良より、家より、貴方のお膝ー