第6章 私は食虫植物になりたい
「大丈夫...?」
熱を整える事も忘れているようで、彼は私を支えた。
「うん...」
支えられたままゆっくりとその場所にへばりついて、床と一体化すればひんやりとフローリングが心地いい。
「ごめん、やりすぎちゃったね」
しゅんと眉がさがり、黒真珠は少し寂しげな色を灯す。
「ううん、いいの...すっごく...すごくね?しあわ...せ...」
視界が歪んで見える。
やけに眠いのだ。
行為の後のせいだろうか?
それとも別の何かがあるのか、彼に微笑みながら私は必死に手を伸ばす。
ふわりと頬を弄ぶ秋風が、彼のピンク色のエプロンを揺らして掴み損ねる。
「トド松...くん」
彼の名前を呼ぶ。
愛しい愛しい人の名前を...。
「うん、なあに?」
優しく笑う彼は、少し肌寒くなった季節の暖かな太陽のような笑みを浮かべこちらを見る。
「ねぇ?好きだよ」
その一言を言ったせいだろうか、何故だか涙が溢れ出して止まらない。
横たわった身体から流れるそれは、重力に逆らう事はなく下へと落ちて頬を濡らす。
「うん、僕も」
黒真珠が揺らぐ。
「待って、やっぱり大好き」
好きよりも大好きと伝えれば、増える涙の数。
悲しいわけではないのだ。
幸せなのだ。
ただ、ただ幸せで仕方ない。
「僕も...透ちゃんの事を食べてしまいたいくらい大好きだよ」
優しい優しい笑顔を灯して、彼は笑った。
その一言に私もだと告げた。
すっと指を伸ばして、彼の手を握る。
指先からでもトクトクと感じる脈は速くて、私とお揃いだ。
気持ちも、心臓の鼓動も同じ。
同じなんだと、好きな人のものと寸分とたがわない想いが幸せで、だから...。
「「愛してるよ」」
二人して同じセリフを並べる。
きっともう、これが最後なんだってわかってた。
心が壊れる前に貴方に伝えたかった。
許して....。
視界がぼやける。
銀の光が私の中に入っていくのが見える。
空中に浮いているような感覚がして、意識が遠くにいっているせいだろうか?
そのコトに痛みはなかった。
ただ自分に銀の鈍い光が入ってるのを、みていた。