第6章 私は食虫植物になりたい
「ほーら!ちゃんと起きないとちゅうしちゃうよ?」
くるりとこちらを向く彼、その言葉に上を向いて目を閉じた。
「あれ?もー、仕方ないなぁ」
少し高めの声、彼の...声。
ゆっくりと手が顔に降りてきて、やわっと頬を包み込む。
甘い香り、紅茶の香り...。
私の大好きなヒトの香りだ。
チュッと小さく音がしてパッチリと目を開ける。
ふっと幸せそうに笑う彼、でも熱を感じたのは唇ではなくおでこだ。
「トド松くん?」
「唇にしてもらえると思った?」
可愛いのに可愛くない、とても焦らすのが上手い。
「...して?」
つぶやく言葉は自然に、そして大胆に...。
けれど、そんな事ぐらいでは彼の心は動かない。
「えー?どこに?なにを誰にして欲しいの?」
ほら、そんな綺麗な目をしてとても意地悪な事をいうでしょう?
だから、素直になるしかない。
でもそれじゃあ負けたみたいで悔しくて、だからたった一言そえてみる。
「...嫌、恥ずかしいから」
そしたら、肩を竦めてくすりと笑う。
けれどその目は熱を帯びてくるように、じっと私を見つめだす。
「いいの?本当に?」
頬にあった手が口元へと滑り込む。
慈しむように親指で下唇を撫でられ、背中がゾクゾクと震えだす。
じっと目と目で見つめ合えばまさに蛇に睨まれた蛙というやつだ。
するっと腰あたりに巻きついてくる腕、力強くされているわけでもないのに逃げ出せそうにない。
彼は妖艶に微笑む、空を舞う蝶のように美しく鮮やかな羽を広げる。そんな蝶から出た鱗粉はひと吸いしただけで麻酔でもされたように痺れだす。
「それで?どうして欲しいの?」
甘い甘い言葉を耳元で囁かれて、なすすべはない。
「トド松に...キスして、欲しい...唇に」
納得のいく答えを出したのだろう、とても満足気に笑う。
「可愛い、透ちゃん」
ちゅっと小さなリップ音がして、柔らかい唇が私に触れた。甘い毒でも口移しされたかのように、びくりと跳ねる身体。
「...おいしい」
ぺろっと舌なめずりをして、とたんに大きな瞳は妖しく色づく。