第5章 君に愛ある手料理を
あんまり会話がない帰り道。
いざとなると、話題が見当たらない。
二人の足音が響いて、長い影が2つ一緒についてくる。
「あの...」
そんな中、小さな声が僕は歩幅を緩やかにして透ちゃんを見つめる。
「...いえ、なんでも」
何かを言いたそうで言えないみたいだ。
この年頃の女の子は難しい。
娘を持つ父親ってこんな気持ちなんだろうか?
ひゅうっと風がふけば、どこからかふんわりと懐かしい香り。
学生時代の思い出の香りだ。
家に帰る途中で流れてくる夕食時の香りは、早く家に帰らなきゃと6人で走り出した懐かしい日々を思い出す。
「...カレー?」
ぽそっとそう言って、立ち止まる。
「あっ、匂い大丈夫?」
僕にとっては懐かしい香りだけど、透ちゃんにとってはそうじゃないかもしれない。
「...少し、でも、うん、大丈夫」
口に手を当てて気持ち悪そうにする透ちゃん、
どうにかしてあげなきゃと考えて自分の服を掴む。
「ちょっと待ってね」
僕はバサりとパーカーを脱いで、それをぽすんと透ちゃんに被せた。
幸いにも僕のパーカーの下はカッターシャツ、変な話これが一番の解決策。
「ごめん、これしかいい方法思いつかなくて。まだマシかなって」
頭から被せたパーカー、透ちゃんの顔が見えなくて不安で下にそっと下ろす。
そしたら夕日に負けないくらい真っ赤な顔して、僕をじっと見る。
「あ、ありがとうござい...ます。」
「ごめんね、臭いかもしれないけど」
「そんな事ない!すごく...いい、におい...」
パーカーを口元に伸しながら伏し目がちで笑う。
そんな事をしてたらあっという間に、透ちゃんの家の近くに着いた。
「これ、また返しにいきます...」
「いいよ、面倒でしょ?」
そしたら首を横に振って、じいっと大きな目が僕を見る。
「私がそうしたいですから...」