第5章 君に愛ある手料理を
外から聞こえる声にクスッと笑って、廊下を早歩きで進む。
「チョロ松は僕ですけど」
ガラっと開けた戸口の先で、小さな女の子が僕を見上げてる。
「こんにちは、透ちゃん?今日はどうしたの?」
「えーと、この間ちゃんとお礼言ってなかったから」
「そんなのもう良かったのに」
にこっと笑ってそう言ったら、ゴソゴソと懐をあさりはじめる。不思議に思ってみてたら、可愛らしい手から数個コロンと転がる四角いチョコ。
無言で差し出されてぼーぜんとしてたら、ずいっと前に持ってくる。
「くれるの?」
こくんと頷き下を向く、どうやらこの間のお礼らしい。
「なに渡していいか、わかんなくて、だから、自分の一番好きな物にした」
「チョコは食べれるの?」
下を向きながらこくんと頷く。プルプル震える手から、チョコを受け取るとぺりっとフィルムを外す。
「あーんして?」
条件反射に口を開ける透ちゃんに、チョコをポイっとほりこんだ。
「ん!???!」
いきなりだったから目をまんまるくして僕を見つめる。鳩に豆鉄砲ならぬ、女子中学生にチョコレート。
「おいしい?」
ゆっくりゆっくり口を動かして、こくりと頷く姿に僕は目を細める。
「じゃあ、残りは僕がもらうね?」
前に出したままの手から四角いチョコを受け取って、ふふっと笑う。甘い物はそこまで好きじゃないけど、ありがとうを形にしてもらえるのはこんなに嬉しい物だと考えさせられる。
「それにしても、いくら子どもだからって男の家に気軽に来ちゃダメだよ?」
「お礼したかったから」
ちょっと危機感が足りない気がするけど、そこがまた可愛らしい所。
「いい?世の中変な人がいっぱいいるんだから、気をつけない...」
「かっわいい、どもどもおそ松でーす!なーにこの子!超絶可愛いじゃんチョロちゃん!?あーでも、中学生かぁ、なになに?ロリコンだったの?チョロちゃん」
「ね?言った通りでしょ?」